慢性糸球体腎炎

慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)は、以前は、治癒することなく進行する腎臓病と考えられていました。しかし最近では比較的良性の慢性糸球体腎炎もあることがわかってきました。慢性腎不全(まんせいじんふぜん)への進行を何としてでも防ぐために、安静と食事に十分に留意し、薬物療法を行っていくことが大切です。
●慢性糸球体腎炎の主な診断基準
1.急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)の発症から尿の異常、または高血圧が1年以上続いていること。
2.発症にはっきりとした急性糸球体腎炎の症状はみられないものの、尿の異常が1年以上続いていること。
3.尿の異常または高血圧の症状がみられる疾患として以下のものがありますが、それに該当しない場合。
・膠原病(こうげんびょう)
・腎盂腎炎(じんうじんえん)
・起立性たんぱく尿
・中毒性腎症
・糖尿病性腎症
・本態性高血圧症
・腎血管性高血圧症
・その他・・・アミトイドーシス、嚢胞腎、妊娠腎など。
注意:この場合、尿の異常というのは、たんぱく尿、血尿のうち、全部または一部が認められた場合を言います。

●慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)の生活上の注意点
1.食事・・・タンパク質、食塩、水分を控えて、高カロリーの食事をとるようにします。また、栄養バランスのよい食事を心がけましょう。
2.運動・・・激しいスポーツは禁止です。
3.過労やストレスは極力避けるようにします。
4.睡眠を十分にとりましょう。
5.身体の清潔を保ちます。
6.かぜや中耳炎といった、感染症を予防するために、マスクや手洗い、うがいを徹底します。
  


透析療法と合併症

腎臓の機能が低下した状態を「腎不全(じんふぜん)」といいます。急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)と慢性腎不全(まんせいじんふぜん)があり、急性の場合は、尿が出るようになる「利尿期(りにょうき)」を迎えるまで、慢性の場合は、ほぼ半永久的に行っていくことになるのが、透析療法です。
透析は、人の腎臓に代わって、機械が体液成分のバランスと量を正常にするはたらきをするものです。しかし、腎臓には、排泄機能、代謝機能、分泌機能、といったさまざまな働きがあり、それをすべて機械で代行することはできません。

最近では、腎臓移植の成功率がかなり高くなってきたことから、積極的に移植を勧める動きがありますが、それでも日本では、透析療法は広く行われていることに変わりはありません。なかには、5年〜20年、と継続している患者さんもおられるほどです。そのため、長期間にわたって透析療法を受けていると、いろいろな合併症や随伴症状が起こる危険性があります。透析療法の継続は、腎臓病のための食事療法はもちろんのこと、これらの症状への対策をいかにうまくやっていくかの戦いとなるのです。
透析療法による主な合併症は主に次の5つです:1.貧血、2.腎性骨症、3.不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)、4.透析アミロイドーシス、5.動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)。
そのほかにも、不快な症状や体調の変化を感じたら、すぐに主治医に相談する必要があります。
  


透析療法

慢性腎不全(まんせいじんふぜん)になると、腎臓の機能は健康な人の半分以下に低下してしまいます。そしてさらに症状が進むと、尿毒症症状が出現します。
尿毒症(にょうどくしょう)というのは、腎臓の機能が極度に低下し、体内に毒素がたまって全身臓器の症状をあらわすようになった状態をいいます。これは腎臓がもつ、排泄、代謝、分泌の3つの大きな機能のうち、排泄機能が障害されたことによります。
以前は、尿毒症になってしまうと、もはや生命の維持が危ぶまれましたが、最近では、透析療法(とうせきりょうほう)が進歩したおかげで、生存率の高まりだけでなく、社会復帰も可能になりつつあります。

人工透析の実施は、週に2〜3回が普通です。ただし、透析療法というのは、あくまでも腎臓の機能を人工的に代行するものであり、腎機能を回復させるものではありません。透析療法を続け、腎臓病の十分な管理を続けていけば、健康な人とほとんど変わらずに仕事などができます。ただし、半永久的に透析を続けていかなければなりません。
尿毒症になってしまってから人工透析(じんこうとうせき)を始めるのではなく、尿毒症症状が出現する前に透析を開始したほうが、その後の経過が良いとされます。

透析の開始は、一般に、血清クレアチニンが1デシリットル中1ミリグラムを超えた時点を目安にして透析導入期とします。ただし、症状によって、たとえば、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)や高齢者の場合、もっと早めに開始したほうがいい場合もあります。
  


ネフローゼ症候群の診断基準

厚生省によるネフローゼ症候群の診断基準
厚生省は、ネフローゼ症候群の診断基準として、1.たんぱく尿、2.低たんぱく血症、3.高脂血症、4.浮腫(ふしゅ)の4つを挙げています。成人ネフローゼ症候群と、小児ネフローゼ症候群でそれぞれ次のように定められています。
浮腫というのは、むくみのことです。腎臓病に多くみられる症状で、ネフローゼ症候群の場合、顔面や足にむくみが出ます。

成人ネフローゼ症候群
1.たんぱく尿・・・1日の尿たんぱく量が、3.5グラム以上が3〜5日以上続くこと。
2.低たんぱく血症・・・1.血清総たんぱく質が100ミリリットル中に6.0グラム以下。2.血清アルブミン量が100ミリリットル中に3.0グラム以下。
3.高脂血症・・・血清総コレステロール値が、100ミリリットル中に250ミリグラム以上。
4.浮腫(ふしゅ)

小児ネフローゼ症候群
1.たんぱく尿・・・尿たんぱく量が、1日3.5グラム、あるいは早朝起床時の第1尿で100ミリリットル中300グラム以上の量が、3〜5日間続くこと。
2.低たんぱく血症・・・総たんぱく量として、学童と幼児の場合は、100ミリリットル中6.0グラム以下、乳児の場合は、100ミリリットル中5.5グラム以下。
アルブミンとして学童と幼児は100ミリリットル中3.0グラム以下、乳児は100ミリリットル中2.5グラム以下。
3.高脂血症・・・血清総コレステロール値が学童では100ミリリットル中250ミリグラム以上、幼児は100ミリリットル中220ミリグラム以上、乳児は100ミリリットル中200ミリグラム以上。
4.浮腫(ふしゅ)
  


腎臓のしくみ

かつては、「腎臓病に薬なし」と言われたほど、腎臓病の治療は困難であり、不可能に近い状態でした。しかし近年では、薬物療法、透析療法(とうせきりょうほう)、腎臓移植(じんぞういしょく)、とすばらしい進歩がみられます。
ただしその一方で、腎不全(じんふぜん)におちいる患者さんは増加傾向にあります。成人病から腎臓がいためつけられて腎不全を起こす場合があるからです。
腎臓に悪い影響をもたらすものには、高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風などの循環系・代謝系の病気です。したがって、こうしたいわゆる成人病の早期発見が腎臓を守ることにもなるのです。

腎臓のはたらき
腎臓は、ソラマメに似た形をし、当人の握りこぶし程度の大きさです。これが左右ひとつずつ対になって、背骨をはさんで向かい合っています。ちょうど腰のあたりの位置に相当します。右側の腎臓は、上に肝臓があることから左側と比べて少し下がっています。

腎臓というのは、「ネフロン」という排泄機能をもつ小さな器官の集合体です。ネフロンひとつは、糸球体(しきゅうたい)、ボウマン嚢(のう)、尿細管(にょうさいかん)が組になっていて、ひとつの腎臓に100万個のネフロンがあるといわれます。
腎臓のはたらきは、主に次の3つです。
1.代謝物や老廃物、薬物などを排泄するはたらき。
2.体内の水分の量の調節と、その成分の恒常性を保つはたらき。
3.レニンやエリスロポチンといったホルモンを分泌するはたらき。
  


糖尿病性腎症

糖尿病(とうにょうびょう)の患者さんに発生する腎臓病のひとつに「糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)」があります。腎糸球体(じんきゅうしたい)の不可逆的な障害です。糖尿病の合併症には、他に「糖尿病性神経障害(とうにょうびょうせいしんけいしょうがい)」と「糖尿病性網膜症(とうにょうびょうせいもうまくしょう)」があり、合わせて「糖尿病の3大合併症」と呼ばれます。

糖尿病性腎症になると、最初、微妙なたんぱく尿が出ます。糖尿病性腎症では、早期発見が非常に重要です。微量なたんぱく尿の測定も可能になってきているので、たんぱく尿が明白になる前に何とか発見し、対策をとることが求められます。
症状が進むと、やがて腎機能が低下し、糸球体硬化症(しきゅうたいこうかしょう)へと進行します。この段階まで進んでしまうと、高血圧や貧血、浮腫(ふしゅ)などの症状が出現します。最終的には、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)、尿毒症(にょうどくしょう)へと進展します。

現在、糖尿病の患者さんの増加にともない、糖尿病性腎症から腎不全になり、人工透析(じんこうとうせき)を受ける患者さんが年々増加しています。人工透析を受ける患者さんのうち、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)による人は、慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)に次いで2位を占めています。また腎臓移植を受ける患者さんも同様に増加傾向にあります。
  


水分の再吸収

人間のからだは、約60パーセントが水分です。それよりも多くても、少なくても適量、すなわち「健康な状態」では、ありません。少ない、つまり足りない場合には、のどの渇きを覚えることで水分を補給します。一方、多すぎる場合には、汗や尿として排泄されるのです。この排泄機能の担い手が、腎臓です。
その一方で、腎臓は、体内の水分の成分の恒常性を保つ働きもあります。成分の恒常性を保つというのは、体液(体内をみたしている血液やそのほかの液体、たとえば、血管の外の組織と組織の間にある液体や、細胞のなかにある液体など)に溶け込んでいる成分(食塩、カリウム、マグネシウムなど)を、多いものは尿として排出しますが、少ないものは腎臓の尿細管という細く長い管を尿のもととなる血液が通って行く間に再吸収されることになります。こうして常に一定の割合になるよう、コントロールされるのです。
再吸収されるおもな物質は、水、食塩、アミノ酸、ホルモン、ブドウ糖などです。1日に尿細管までいく尿のもととなる血液(原尿)は、150リットルにのぼります。しかしその99パーセントは再吸収され、実際に尿として排泄されるのは1パーセント、すなわち1500ミリリットル程度にすぎないのです。
腎臓は、年中無休、24時間働きづめです。しかもこの水分の再吸収は、特に、夜なかに多く吸収するよう働きます。しかし年齢が増し、腎臓病になると、この機能が低下し、夜中に何度もトイレに起きる、ということになってしまうのです。
  


家庭透析

ネフローゼ症候群といった腎臓病が悪化し、腎臓の機能が低下した状態を腎不全(じんふぜん)といいます。急に腎臓機能が低下して、尿が少なくなったり(乏尿)、出なくなったり(無尿)したものを急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)といいます。また、腎臓の機能が健康な人の半分以下にまで低下してしまい、多くの場合、もとに戻らなくなってしまう状態を慢性腎不全(まんせいじんふぜん)といいます。
慢性腎不全となってしまった場合は、進行すると「透析療法」を受けることになります。
現在の透析療法は進化し、慢性腎不全を抱えながらも通常の人とほとんど変わらない生活を送れるまでになりました。
透析療法は、週に2〜3回通院し、1回5時間ほどもかかることから日常生活にかなりの負担になります。しかし、夜間透析や持続的家庭腹膜透析(CAPD:患者さん自身の腹膜を透析膜として利用する方法で、在宅透析法として健康保健の適用となります)を受けている人は、特に、高い社会復帰を果たしています。家庭透析にすることで、2〜4週間に1回程度の通院でよくなります。また、自分自身である程度、透析のスケジュールを組むことができるのも、社会生活への復帰の大きなカギとなります。

それでも透析療法というのは、あくまで衰えた腎臓機能の代わりを機械にやってもらうものであり、腎臓を回復させる手段ではありません。したがって、腎臓移植を受けて移植が成功した場合を除き、半永久的に透析を受けていくことになります。
  


腎性骨症

腎臓病で透析治療を長くおこなっていると、さまざまな合併症や随伴症状が出てきます。そのうちのひとつに骨の病変があります。
腎性骨症(じんせいこつしょう)とは、腎臓の機能の低下によって生じる、骨の病変です。骨軟化症(こつなんかしょう)、病的な骨折、骨痛、といった症状をいいます。
理由は、2つあります。1つは、腎臓の代謝機能の障害による活性型ビタミンDの不足、もうひとつは、腎臓の排泄機能障害によるリンの過剰です。
●活性型ビタミンDの不足
骨の形成をうながすビタミンにビタミンDがあります。ビタミンDは、カルシウムの骨への沈着を助ける働きがあるとして、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の人の治療に着目されているビタミンです。ビタミンDは、レバーやかつお、いわし、まぐろなど、食品中にも含まれているのですが、このビタミンDは、腎臓で代謝(たいしゃ)され、活性型に変化してはじめてその威力を発揮するのです。しかし、腎臓が機能を失ったことで活性型ビタミンDが不足し、骨に栄養が沈着できなくなり、骨が病変するのです。

●リンの過剰
リンが過剰となることによって副甲状腺ホルモンが過剰になり、それが骨の形成を妨げる障害となります。リンは、カルシウムの吸収に必要ですが、その比率が大切なのです。カルシウム:リンの比率が、1対2、あるいは2対1の幅にあるとよく、それを外れると悪くなります。リンは、あらゆる食品に広く含まれていますが、特に加工食品に多く含まれます。骨粗鬆症予防からも、また透析中は特に、リンが過剰にならないよう食事のリン制限をすることが大切です。
  


糸球体濾過の機能検査など

腎臓病の検査には、たんぱく尿の検査やX線検査などのほかにもさまざまな検査が行われ、腎臓病や、その他の疾患の可能性を調べます。
●検査名・・・クリアランス検査(Ccr)
・検査の内容・・・糸球体濾過値を調べる検査です。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・糸球体濾過値が100ml/ 分が正常値とされ、それより高値だと、妊娠、初期の糖尿病が疑われます。一方それよりも低値の場合は、腎炎などが疑われます。

●検査名・・・濃縮検査(フィッシュバーグ濃縮検査)
・検査の内容・・・早朝3回尿を採取し、その比重または浸透圧を測定します。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・比重が1.023以上、浸透圧800mOsm/kg以下が正常です。低下すると、尿細管の機能低下を呈する疾患や、尿崩症(にょうほうしょう)が疑われます。

●検査名・・・血清尿素窒素検査(BUN)
・検査の内容・・・糸球体濾過機能をしらべる検査です。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・10〜15mg/dlが正常とされます。それよりも高値の場合は、タンパク質の大量摂取、腎機能低下が疑われます。一方、それより低値の場合は、妊娠、肝不全の可能性があります。

●検査名・・・血清クレアチニン
・検査の内容・・・糸球体濾過機能をしらべる検査です。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・男性の場合は、0.8〜1.3mg/dl、女性の場合は、0.5〜0.9mg/dlが正常値です。それよりも高値の場合、腎不全、うっ血性心不全などが疑われます。
  


透析患者の生活

慢性腎不全(まんせいじんふぜん)の症状が進行し、腎臓の機能が一定以下に落ちると、人工透析(じんこうとうせき)治療に入ることになります。人工透析治療は、最近、めざましく発展し、適切な管理を続けていくことで健康な人とほとんど変わらない生活を送れる可能性もあります。ただしそれはあくまでも「適切な管理」があってのことです。しかも人工透析は、通常、週に2〜3回、それも半永久的に続くことになります・・・透析療法には、「在宅腹膜透析(ざいたくふくまくとうせき)(CAPD)」と言って、患者さん自身の腹膜を透析膜として利用する方法もあります。在宅透析法として健康保健でも認められています。この場合は、2〜3週間に1回の通院で済みますが、それでも負担が大きいことに変わりはありません。また、この方法は、自己管理ができない人や、手や目の不自由な人などは難しいことがあります。
腎臓移植が成功して、人工透析、透析合併症から解放される場合もありますが、それでも日常の管理、注意は継続する必要があります。
腎臓病というのは、治癒はおろか、進行を食い止めるのも非常に大変な病気なのです。
透析を受けている患者さんはどのようなことを注意して生活していったらいいのでしょうか?
透析を受けていても仕事やスポーツ、など健康な人とほぼ変わりない日常生活を送ることができます。仕事で出張したり、旅行をしたり、旅先で透析センターに連絡することができれば可能です。ただし、食事、水分、塩分は制限されます。また、何らかの疾患で薬の処方をうける場合は、透析を受けていることをその医師に伝える必要があります。
  


急性腎不全

急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)は、急に腎臓の機能が低下し、尿が少なくなり、出なくなります。現在でも、予断を許さない危険な病気です。
尿の量が少なくなる症状を「乏尿(ぼうにょう)」、尿が出なくなってしまう症状を「無尿(むにょう)」と言います。急性腎不全になると、尿量の変化だけでなく、消化器、呼吸器、循環器、神経系など、いろいろな症状が発生し、きわめて危険な状態となります。

急性腎不全であらわれる症状
●浮腫(むくみ)・・・顔面浮腫、脚の浮腫
●舌やくちびるの乾燥
●貧血
●乏尿、血尿、たんぱく尿、尿路感染症
●肺浮腫、肺感染症
●紫斑(しはん)・・・内出血で現れる斑点
●菌血症
●悪心、嘔吐、消化管出血
そのほか、精神障害、痙攣、傾眠といった症状も現れます。

急性腎不全は、急に尿が出なくなった(無尿)、尿の量が少なくなった(乏尿)になったときにまず疑われます。診断にあたっては、血液をとって検査をします。血清クレアチニンや尿素窒素(BUN)が上昇していると、急性腎不全と診断されます。
さらにその詳しい原因や腎臓の状態をしらべるために、尿たんぱくや尿沈さの検査などが行われます。そのほか、X線検査やCTスキャン、超音波検査が行われることもあります。

急性腎不全と診断されたら、過労と不規則な生活を避けて身体を養生し、慢性腎不全への移行をなんとしても阻止しなければなりません。
この病気は、本人が日ごろから注意や予防をできる類のものではありません。かかってしまったら、医師の管理のもと、指示を守ることが大切です。
  


腎性貧血

腎臓の機能が衰えてしまったときに、そのはたらきを機械に代行してもらうのが、透析療法ですが、あくまで代行であることから、衰えた腎臓が回復するわけではありません。したがって、透析療法は半永久的に継続していかなければならないことが多く、しかも人間の腎臓の機能のすべてを機械で代行できるわけではないことから、長期間にわたって透析療法を受けていると、さまざまな合併症が現れます。その代表的なものが以下の5つです。
透析療法による主な合併症
1.貧血
2.腎性骨症
3.不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)
4.透析アミロイドーシス
5.動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)。

これらのうち、1の貧血は、現在医薬技術の進歩でほぼ解決されています。また、3の不均衡症候群についても、透析効率を少し落とすなどして調節することで乗りきれます。
しかし、他の3つについてはまだ課題が残されている状態です。
●透析治療と貧血
「腎性貧血(じんせいひんけつ)」と呼ばれるもので、腎臓で産生、分泌されるホルモンのひとつ「エリストポエチン」が、長期間におよび透析の間に欠乏することから起ります。エリストポエチンというのは、骨髄に働きかけ、骨髄が血液をつくる作用を促進するホルモンです。

しかし、現在では医薬品としてエリストポエチンが用いられるようになったことから、透析治療の合併症として人びとを苦しめてきた、腎性貧血の問題は、ひとまず解決されたといっていいでしょう。
  


腎臓移植の生着

根本的な治療法が他になく、透析治療を長年にわたって続けている慢性腎不全(まんせいじんふぜん)の患者さんにとって、腎臓移植は、貴重な根治療法です。
移植の成功率、つまり「生着率」は、腎臓を提供する人(ドナー)と、腎臓の提供を受ける人(レシピエント)の、血液型適合性と組織適合性のHLA抗原(こうげん)の相性できまります。意外に思われるかもしれませんが、血液型は、ABO式血液型が適合していれば大丈夫です(最近では、血液型が異なっていても移植が可能な場合もあります)。

HLA抗原の相性を決定する遺伝子(人間の場合は、6番目の染色体にある遺伝子)は、親子間では、半分の遺伝子が一致します。きょうだい間では、半分の遺伝子が一致する人が50パーセントで、完全に一致する人が25パーセント、さらにまったく一致しない人も25パーセントいます。

当然のことながら、きょうだい間の完全に一致する人同士の腎臓移植は、成功率が高く、生着率が90パーセントにのぼります。
一方、半分の遺伝子が一致する、親子間、あるいはきょうだい間では、かつては50パーセント強程度でしたが、最近ではさまざまな方法:1.あらかじめ腎臓の提供者から輸血をしておく、2.移植後の免疫抑制薬の使用を工夫する、などの方法によって、現在では90パーセント近くにまで生着率を高めることに成功しています。

ただし、腎臓移植後、免疫抑制薬は一生必要となります。臓器に対する拒絶反応を抑制すると同時に、感染症に対する抵抗力も奪ってしまいます。そのため感染症の治療や、免疫抑制薬そのものの副作用との戦いが続くことになるのです。
  


腎臓のはたらき

私たちの身体のちょうど腰の高さで、左右ひとつずつ対になって存在している臓器が、「腎臓」です。それぞれ握りこぶしほどの大きさのこの臓器は、いったいどのようなはたらきをするのでしょうか?
腎臓のはたらきは、主に次の3つ・・・1.代謝物や老廃物、薬物などを排泄するはたらき、2.体内の水分の量の調節と、その成分の恒常性を保つはたらき、3.レニンやエリスロポチンといったホルモンを分泌するはたらき。

それぞれのはたらきについて詳しくみていきます。
1.代謝物や老廃物、薬物などを排泄するはたらき。
腎臓の第1の役目は、排泄機能です。
たとえば、食事でとった「タンパク質」が体内で利用されると「尿素」という不要な物質ができます。これを身体の外へ排出するのが腎臓の役割です。また、食塩をとり過ぎた場合や、薬物、その他体内に生じた老廃物なども、腎臓のはたらきによって体外へと排出されます。

2.体内の水分の量の調節と、その成分の恒常性を保つはたらき。
からだに必要な水分を確保するとともに、過剰な水分を排泄して、体内の水分量を調節するのも腎臓の重要なはたらきのひとつです。

3.レニンやエリスロポチンといったホルモンを分泌するはたらき。
ホルモンを分泌するはたらきとは、たとえば、レニンというホルモンを分泌してそれが血液中のタンパク質に作用し、アンジオテンシンという物質ができると、それが血圧をあげる作用をする、というように、腎臓があるホルモンを分泌することで血圧の調節をする、というものです。また、同様に腎臓が分泌するホルモンのはたらきで赤血球の調節も行われます。


腎臓病になるとこのようなはたらきに支障が出てくることになります。
  


ネフローゼ症候群

代表的な腎臓病のひとつに、「ネフローゼ症候群」があります。
たんぱく尿が出て、血液のタンパク質が不足する病気です。小児に多いのが「微小変化型」です。これは、ステロイド薬がよくきくため、寛解率(かんかいりつ)は高いのですが、再発率も高いことから油断は禁物です。約50パーセントにものぼります。
治療法は、安静を守り、高タンパクの食事をとります。また減塩は必須です。と同時に、薬物療法を行います。
タンパク質は、健康な成人で体重1キログラムあたり平均1.18グラムが1日の所要量です。育ち盛りの青少年の場合は、2.0グラム必要とされます。
ネフローゼ症候群では、尿にたんぱく質が失われていることから大目にとる必要があるとかつては考えられてきましたが、現在ではさほど意味がないとされます。一方、食塩は、むくみのないときでも8グラムを超えないようにし、むくみがあるときには1日3〜5グラムまで制限されます。

●ネフローゼ症候群のおもな症状
1.浮腫(むくみ)
・夕方、靴や指輪がきつくなります。体重が増加し、尿の量が減ります。
・足を指で押しても、皮膚がもとに戻りにくく、指跡がつきます。
・からだを動かすと息切れがします・・・胸水。
・からだを横にすると咳が出たり、呼吸が困難になる・・・胸水、腹水。
2.尿の異常
・尿の泡立ちが著しい。
・尿の色が濃くなったり、白っぽくなる。
3高血圧
・高血圧をともなう場合は、腎機能が悪くなっている可能性があります。進行性の場合が多い。
4.自覚症状
・顔面や足がむくむ。
・全身がだるい、疲れやすいなど。
5.循環血しょう量の減少が原因の症状
・血圧低下。
・ひん尿。
・乏尿。
・めまい、など。
  


ネフローゼ症候群とたんぱく尿

急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)や慢性腎炎(まんせいじんえん)と並び、代表的な腎臓病のひとつに、ネフローゼ症候群があります。たんぱく質が大量に出て(1日に3.5グラム以上)、尿中に排出されることから、体内におけるタンパク質が不足して、顔面や足に強いむくみが出る病気です。

ネフローゼ症候群では、たんぱく尿(尿中に漏出した血清たんぱく)が、多量にみられます。
健康な人でもごく微量のタンパク質が尿中に検出されます・・・1日50グラム以下です。また、とくに病気ではなくても、マラソンなどの過激な運動をした後に生じるもの(運動性たんぱく尿)や、起立したときに生じるものの、寝ると消えるもの(起立性たんぱく尿)、また新生児たんぱく尿などがあります。これらを「生理的たんぱく尿」と言います。
しかし常時、しかも多量のタンパク質が尿中に排泄されることはありません。
多量のタンパク質が尿中に排泄されるのは、やはり何か腎臓に病気があるということなのです。

ネフローゼ症候群の症状は、1.たんぱく尿、2.浮腫(ふしゅ)・・・むくみのこと、3.高脂血症(こうしけっしょう)が主なものです。特にたんぱく尿は、ネフローゼ症候群の診断の決め手になります。
まずは、尿たんぱくが、1日3.5グラム以上出ているかどうかで判断されます。その後、さらに血清検査や腎生検(じんせいけん)によって詳しく診断を行います。
・参照:腎生検査とは、腎臓を針で穿刺(せんし)して組織を調べる方法。
  


人工腎臓

腎臓病になり腎臓の機能が衰えてしまった場合、現在、腎臓移植といった方法に加えて開発が期待されているのが、「人工腎臓」です。はたらきを失ってしまった臓器を人工のもので置き換え、代行させるのが「人工臓器」で、心臓ペースメーカーや人工弁、完全人工心臓、補助心臓、といった「人工心臓」だけでなく、「人工肺」「人工骨」「人工関節」そして「人工腎臓」なども開発されつつあります。

腎臓には、1.代謝物や老廃物、薬物などを排泄する機能、2.体内の水分の量を調節し、その成分の恒常性を保つ機能、3.エリトロポエチン(骨髄に働きかけ、骨髄が血液をつくる作用を促進するホルモン)などのホルモンを分泌する機能、という3つの機能があります。
これらの機能から、腎臓は、具体的には、1.尿をつくり、2.血圧を調節し、3.赤血球をつくるホルモンを出し、4.ビタミンDを活性化する、といった働きをしています。

人工腎臓は、有効な治療法ではあるもの、人間の腎臓の機能をすべてまかなえるわけではありません。どんどん技術は進化しつつありますが、現在の人工腎臓で代行できるのは、1の尿をつくる機能だけです。血液中の水分や毒素をからだの外に排出するはたらきを担います。
現在利用されている人工腎臓には、さまざまなものがあります。最も広く用いられ、人工腎臓の代名詞ともいわれるのが、「血液透析(HD)」です。

透析膜(セロファンの一種)を通して、血液中の毒素を透析液中に拡散させて取り除くというものです。この方法の場合、1回につき4〜5時間、週に2,3回の透析をすることで、腎機能が健康な人の半分以下にまで低下してしまった、腎不全の人でも、日常生活を送ることが可能になります。
  


腎臓病の検査

腎臓病が疑われる場合、どのような検査が行われるのでしょうか?以下にその主なものとして、たんぱく尿の検査、X線・超音波検査、腎生検査、PSP検査について、その内容、および異常な値となったときに疑われる病気を挙げてみます。
●検査名・・・たんぱく尿の検査
具体的には、試験紙法、スルフォサルチル法、煮沸法、など
・検査の内容・・・尿中のタンパク量をしらべます。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・1dl中に10−20mlが正常とされます。これよりも高値となると、異常と考えられ、ネフローゼ症候群や糸球体腎炎が疑われます。

●検査名・・・X線検査および超音波検査
・検査の内容・・・形、腫瘍、のう胞、結石の有無などをしらべます。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・腎臓の大きさ、位置、腎盂(じんう)の形態の異常。

●検査名・・・腎生検
・検査の内容・・・組織の一部を取り、病気の有無をしらべる検査。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・細胞増殖や膜の肥厚、つぶれてしまった糸球体の比率など。
参照:1個の糸球体は、直径約0.2ミリメートルと非常に小さなものです。しかし左右の腎臓を合わせて、約200万個の糸球体があります。ここを1日に血液が約150リットルも濾過されるのです。


●検査名・・・PSP検査
・検査の内容・・・赤い色素を注射して、それが腎臓からどれだけ排泄されるかをしらべる検査。
・正常値と異常の場合の疑われる病気・・・15分値25〜50パーセント以上が正常とされます。下降の場合、腎血流量低下、近位尿細管機能低下を呈する何らかの疾患が疑われます。
  


慢性腎不全の治療

腎臓の機能が健康な人の半分以下に落ちてしまった状態を「慢性腎不全(まんせいじんふぜん)」と言います。慢性腎不全になった場合、その治療法は、まず次の3つが柱・・・1.進行を遅らせるための治療、2.腎機能を悪化させる合併症を防止するための対策、3.腎不全の症状に対する治療、です。
1.進行を遅らせるための治療・・・特に、1.血圧の管理(降圧薬(こうあつやく)と減塩)、2.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アンジオテンシンへんかんこうそそがいやく)、3.低たんぱく食、4.経口吸着炭素製剤(けいこうきゅうちゃくたんそせいざい)・・・クレジン、5.その他

これらは医師の厳重な管理のもとで行う必要があります。たとえば、低たんぱく食は素人が勝手に行うと、栄養失調を起こす可能性があります。

2.腎機能を悪化させる合併症を防止するための対策・・・脱水症状、浮腫(ふしゅ)、高カリウム血症(けっしょう)、感染症、腎毒性の薬物、といったものが慢性腎不全(まんせいじんふぜん)に合併して作用すると、腎機能を急激に悪化させる危険があります。
腎臓病とは別に何かの疾患で薬を処方される場合、腎臓機能が低下していることをその医師に伝える必要があります。

3.腎不全の症状に対する治療・・・腎不全が進行すると、排泄機能障害や代謝機能障害、分泌機能障害など、さまざまな症状が出ます。高血圧の治療は、腎不全の進行を防止するのに重要です。骨の障害が現れた場合には、ビタミンDを服用し、貧血に対しては、リスロポエチンを使用します。
  


低たんぱく食

腎臓病の患者さんのうち、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)とネフローゼ症候群の患者さんは、低たんぱく食を摂る必要があります。
慢性腎不全というのは、腎臓の機能が低下し、健康な人の半分以下にまで下がった状態をいいます。その多くは、元にもどらないと言われます。しかし、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)の患者さんの場合、低たんぱく食の摂取など日常生活の注意を続けることで腎不全の進行を防ぐ効果があるとされます。
一方、ネフローゼ症候群というのは、たんぱく尿が出て血液のタンパク質が不足する病気です。尿たんぱくを減少させたり、腎機能の低下を防ぐために低たんぱく食を摂取します。ただし、ネフローゼ症候群では、血中たんぱくが減少することから、このようなときにたんぱく質を制限すると、かえって病気を悪化させる危険もあります。したがって栄養管理は、専門家の指導のもとで行います。
低たんぱく食
タンパク質の制限をする場合には、その代わり、良質のタンパク質・・・卵、肉、魚などの動物性たんぱく質・・・をとるようにします。そしてカロリーが全体として不足しないようにします。肉や魚を減らすと、カロリーが不足しがちだからです。かといって、主食・・・米、麦・・・でカロリーを補おうとすると、これらのなかに含まれる植物性たんぱく質が多くなってしまいます。植物性タンパク質は、質的に動物性タンパク質に劣るのです。
このようなジレンマの一助となるのが、市販の腎不全用の低たんぱく食品です。また、最近では、宅配でこのような病人食を用意してくれるところが増えてきています。
  


3大腎臓病

腎臓病の代表格は、急性腎炎(きゅうせいじんえん)、慢性腎炎(まんせいじんえん)、ネフローゼです。よく耳にする、「腎不全(じんふぜん)」というのは、これらの腎疾患(じんしっかん)が進行して、腎臓の機能が著しく低下した状態です。
そしてその腎不全の末期の症状が「尿毒症(にょうどくしょう)」となります。

尿毒症というのは、腎臓の機能が極度に低下し、体内に毒素がたまって全身の臓器に症状をあらわれるようになった状態をいいます。腎不全の末期の症状で、以前は、生命の維持も危ぶまれる危険な状態でしたが、現在では透析療法が進んで生存率が高まりました。社会復帰も可能になりつつあります。

急性腎炎(きゅうせいじんえん)、慢性腎炎(まんせいじんえん)、ネフローゼも含め、他にもさまざまな腎臓病があります。
●急性腎炎(きゅうせいじんえん)・・・強い症状が出ますが、短期間で治癒しやすい傾向があります。

●慢性腎炎(まんせいじんえん)・・・慢性腎炎の場合は、数年から10年近く症状がないまま進行し、自覚症状が現れたときにはかなり進行しているということが多くあります。
●ネフローゼ症候群(ねふろーぜしょうこうぐん)・・・ネフローゼは、タンパク質が大量に(1日に3.5グラム以上)尿中に排出されるため、体内においてタンパク質が不足し、強いむくみを特徴とする腎臓病です。
その他、急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅたいじんえん)、慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)など、さまざまな腎臓病があります。
  


一次、二次ネフローゼ症候群

代表的な腎臓病のひとつ、ネフローゼ症候群は、腎糸球体(じんしきゅうたい)が免疫または代謝異常によって損なわれ、基底膜(きていまく)に異常が起きて、そこから多量の血清たんぱくが漏れ出たことから、尿へ、さらに体外へ排出されることから起きる病気です。
ネフローゼ症候群は、糸球体(しきゅうたい)の異常の起り方の違いから、一次性ネフローゼ症候群と二次性ネフローゼ症候群に分かれます。
●一次性ネフローゼ症候群・・・糸球体そのものの病気によってネフローゼ症候群を示すようになったものです。このタイプの患者さんの腎臓の組織から、大きく次の4つのタイプにわかれます。
1.微小変化型(リポイドネフローゼ)
2.異常硬化型
3.膜型
4.細胞増殖型

●二次性ネフローゼ症候群・・・何らかの全身疾患が原因で、糸球体に障害が及び、それでネフローゼ症候群の症状を示すようになったものです。原因となる疾患は非常に多いですが、主に次のものがあります。
1.糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)などの、代謝性疾患(たいしゃせいしっかん)。
2.ループス腎炎(じんえん)などの、膠原病(こうげんびょう)とその類縁疾患。
3.悪性腫瘍(あくせいしゅよう)
4.薬剤や化学物質によるもの。たとえば、ヘロイン中毒からネフローゼ症候群となることがあります。
5.感染によるもの。ウイルス感染症など。その他、虫さされなどが原因となることもあります。
6.そのほか、妊娠中毒症(にんしんちゅうどくしょう)や肝硬変(かんこうへん)、エイズなどもネフローゼ症候群の原因となります。
  


腎移植

現在では、腎臓病で腎臓の機能が著しく低下してしまった場合でも、人工腎臓を用いて腎臓の機能の一部を代行してもらうことで日常生活にかなり復帰できるようになりました。その代表的な方法が、血液透析です。しかし、透析治療は、腎臓のすべての機能を代行できるわけではないことから、長期間にわたって行っているうちに、さまざまな合併症や随伴症状が発現するようになります。
そこで、もうひとつの手段として期待されているのが、「腎臓移植」です。

現在、臨床で行われている臓器移植には、腎臓の他にも、心臓、心肺・肺、すい臓、骨髄、角膜などがあります。
臓器移植は、ドナー(臓器提供者)とレシピエント(臓器受容者)の間でおこなわれます。臓器移植では、このドナーとレシピエントの適合性が最適なものが選択されることになります。
腎臓は、人のからだにふたつあることから、生きている人からもらうことができる臓器です。生きている人から片方の腎臓をもらうものを「生体腎」、すでに亡くなった人の腎臓をもらうものを「死体腎」といいます。
生体腎は、血液関係者を中心に行われます。移植後、提供した側のドナーも、提供された方のレシピエントも、ひとつの腎臓で支障なく生活していくことができます。
日本では、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)の患者さんの多くは、透析治療を受けていますが、これらの患者さんにもっと腎臓移植が広がることで、透析の負担や合併症から解放されることができるため、移植には特に期待がかけられています。
  


腎臓病の人の食事の注意

腎臓病の患者さんは、自らが主体となって生活を管理することが非常に重要です。その柱となるのが、食事療法です。それによって病気が治癒するわけではありませんが、腎臓への負担を軽減し、病気の悪化を食い止める・・・遅らせることができます。
腎臓病の患者さんの食事療法のポイントは3つ・・・1.タンパク質、2.塩分、3.エネルギーです。
1.タンパク質
腎炎や腎不全の患者さんは、低たんぱく食をとります。また、ネフローゼ症候群の患者さんの場合、たんぱく尿が高度で、低タンパク血症を起こしている場合には、タンパク質を十分に補給する必要があります。

2.塩分
むくみや高血圧、また尿が少ない、あるいは出ないといった症状(乏尿、無尿)がある場合には、1日7グラム以下に制限するようにします。

3.エネルギー
エネルギーが不足すると、体力や抵抗力が落ちます。また、腎臓への負担も増します。特にネフローゼ症候群の患者さんは、十分なエネルギーを摂取する必要があります。

その他、カリウムとリンを控えることも重要です。高カリウム血症や高リン血症を起こしやすい患者さんは注意しましょう。カリウムは果物に多いです。また、リンは食品のなかでは乳製品に多く含まれています。

透析が開始された患者さんの場合は、たんぱく制限は不要になります(むしろ、体重1キログラムあたり1日1.2〜1.5グラムの摂取が必要といわれます)。しかし、塩分、カリウム、リン、水分の制限は依然として必要です。
  


腎不全の食事の工夫

腎不全(じんふぜん)の人の食事療法は、透析治療を少しでも遅らせるために非常に重要なものです。
腎不全のなかでも特に、慢性腎不全(まんせいじんふぜん)の患者さんは、腎臓の機能が健康な人の半分以下に低下してしまっています。腎臓に負担をかけないようにする必要があります。そのため、食事制限は決してゆるいものではありません。長続きさせるためにも少しでも無理のないよう工夫することが必要となってきます。
症状に合わせて、タンパク質と塩分を制限します。
・タンパク質・・・1日3グラム
・塩分・・・5グラム
・エネルギー・・・1日2000キロカロリー
タンパク質を抑えて、なおかつエネルギーを確保しようとすると、砂糖や油を用いることになりかちです。油っこさや甘ったるさが嫌味にならないようにさっぱりとした味付け(たとえば、酢を用いてマリネにする)にすることが食事療法を長続きさせる工夫です。
また、最近では、特殊食品として、高エネルギー、低たんぱく、低塩分になるよう配慮した食品が数多く市販されています。
たとえば、減塩食品としては、「減塩しょうゆ」が、ふつうのおしょうゆの半分の塩分量です(キッコーマン)。「減塩みそ」は、ふつうのおみそのやはり半分の塩分量です(キューピー)。
そのほか、低たんぱく質食品として、ふつうの小麦粉(薄力粉)よりもタンパク質の量が30パーセント少ないものが市販されています(昭和産業)。

これらの市販食品も上手に食卓に取り入れながら、少しでも楽しく食事を続けられるようにしましょう。
  


腎臓移植

腎臓病、なかでも腎不全になってしまったら、血圧の管理や食事療法などで進行を遅らせ、少しでも人工透析の導入を遅らせることが大切です。
最近では、人工透析も進歩し、適切な管理のもとで続けていくことにより、健康な人とほとんど変わらない生活を送ることも可能になりつつあります。しかし、人工透析は通常、週に2〜3回受けなければなりません。しかもこれは、あくまで低下してしまった腎機能の代わりをするものであり、腎臓病を回復させるものではありません。したがって、半永久的に透析治療を続けていくことになります。また人工透析の合併症もあります。
これらの苦しみから解放してくれる可能性があるのが、「腎臓移植」です。
腎臓移植には、1.生体腎移植(せいたいじんいしょく)と、2.死体腎移植(したいじんいしょく)があります。
1.生体腎移植・・・親子、きょうだいなど、生体(生きている人の身体)から血液型や白血球の型(HLA)が一致する人の腎臓の片方を移植するものです。腎臓は左右ひとつずつ対になって2つあり、背骨をはさみ向かい合っています。したがってどちらか一方を失っても機能できるのです。

2.死体腎移植・・・事故などで亡くなった人の腎臓(死体腎)を、腎臓病の患者さんに移植するものです。ただし死後1,2時間以内に摘出し、移植しなければなりません。

腎臓移植の成功率は非常に高く、1の生体腎では90パーセント以上、2の死体腎でも70パセーント近くにのぼります。他の臓器の移植と同様、移植を推進しようという気運が高まってきつつあります。
  


腎臓の異常を知る

腎臓は、尿を排泄するはたらきもありますが、逆に体内に必要な成分は再吸収するはたらきもあります。ということは、必ずしも、尿が多ければ腎臓が活発によく機能しているということでもなく、かといって尿が少なければいいというわけでもなさそうです。また、尿の色を観察していると、朝起きたときの1ばんの尿は、色が濃いように感じませんか?程度にもよりますが、これは特殊な場合を除いて、まず心配ないことが多いようです。老廃物がたくさん出ている・・・つまり、腎臓が活発に機能している、ということでむしろ良いことの証明です。
このように腎臓の機能のよしあしは、普段の生活のなかではなかなかわかりません。なかなか警告サインを出してくれない腎臓が、手遅れの状態まで病に侵されないよう、日ごろから高血圧など、腎臓に負担をかける成人病に注意し、適切な検査を受けることが必要です。
腎臓病の検査には、尿検査、腎機能検査、のほか、X線検査や血液検査も行います。

1.病気の場所を知るための検査・・・尿検査、X線検査、など。
2.腎臓の機能の程度を知るための検査・・・腎機能検査
3.体液の異常の程度を知るための検査・・・血液検査

この尿検査とは、尿のPH、尿の量を調べます。腎機能検査というのは、PSP検査(排泄試験)とGFR検査(糸球体濾過値)です。そして腎臓病の血液検査というのは、主に血清尿素窒素(BUN)と血清クレアチニンです。これらは腎不全になると値が高くなることから、腎機能を知る重要なバロメーターになるのです。
  


腎臓病の食事療法

腎臓病では、いずれの病気であれ、何らかの食事療法が必要となります。食事を注意することで機能が低下した腎臓にさらに負担をかけるのを予防し、病気の悪化を抑える、あるいは悪化のスピードを抑えることができます。

基本は1.エネルギーを確保する、2.タンパク質の量を制限し、バランスよくとる、3.食塩を制限する、4.カリウム、リンを抑える、5.水分を制限する、6.カルシウム、鉄、ビタミン類を不足なくとる、です。

どの腎臓病かで、食事療法も変わってきます。必ず主治医や栄養士に相談のうえで行うようにしてください。
●慢性腎炎(まんせいじんえん)の人の食事
慢性腎炎の患者さんの食事はさほど制限がきついものではありません。
・タンパク質・・・1日60〜70グラム
・塩分・・・7グラム
・エネルギー・・・2000キロカロリー
腎臓病ではたんぱく質の量に注意するとともに、その質にも配慮します。大豆製品(豆腐、納豆、みそ)も含めて動物性、植物性、バランスよくとります。
エネルギー不足になると、身体に負担がかかります。エネルギーを確保するために、間食で糖質をとるようにすると無理なくできます。手作りのお菓子を用意することで楽しく食事療法を続けられるといいです。
また、3食を和食にしてお味噌汁をとってしまうと、塩分のとりすぎにつながります。1日1食をパン食にするとバターやジャムでカロリーをとることができますし、塩分を減らしやすくなります。
  


慢性腎不全

腎臓病になるとさまざまな症状が現れます。
慢性腎不全(まんせいじんふぜん)は、腎障害(じんしょうがい)が重くなり、腎臓の機能が健康な人の半分以下にまでさがってしまった状態をいいます。その多くは元に戻りません。ただし、現在では人工透析(じんこうとうせき)の技術が進歩して、生存率が大きく伸びています。
慢性腎不全の症状には次のものがあります。
●腎臓の代謝機能障害によるもの・・・腎臓には、体内で必要な物質を化学的に変化させることではたらきを活性化し、分解する能力があります。この機能が損なわれると、さまざまな症状をもたらします。その一つが、ビタミンDの欠乏です。ビタミンDは、腎臓で活性体に変わることから、腎臓の働きが障害されるとビタミンDの欠乏に至るのです。そしてこれが原因で「くる病」や「骨軟化症(こつなんかしょう)」、「繊維性骨炎(せんいせいこつえん)」などの骨の合併症が発生します。
●腎臓の排泄機能障害によるもの・・・腎臓は、老廃物や不要物を尿中に排出する機能があり、その機能が障害されると、浮腫(ふしゅ)、高カリウム血症、アシドーシス(酸性血症(さんせいけっしょう))、高尿素窒素血症(こうにょうそちっそけっしょう)、高クレアチニン血症、高リン酸血症、高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)、尿毒症(にょうどくしょう)、尿毒症毒素(にょうどくしょうどくそ)といった、実にさまざまな症状をもたらします。